INDONESIA
バスワラの物語
ステージ 2
ストーリー:ロティ・ショーヴェク
翻訳・編集: 近藤結・CLAチーム
イラストレーション:アニャ・マハラニ・クマラワテ
プロローグ
バスワラは遠いところにある、僕のふるさとです。悲しいことに、そう思えないこともよくあります。リーダーのチャハラが、おろかでおかしなルールをたくさん作ったからです。例えば、「男は髪を短くすること」「女は髪を長くすること」というルールです。僕はルールを守りたくなかったけど、チャハラが怖くて、彼の本当の力をわかっていませんでした。「メラティ」が僕を助けてくれたので、僕はラッキーでした。
Chapter 1
ある朝、ヌサとカンタンは本屋にいました。本屋には、ヌサが書いた本がありました。ヌサはその本を取り上げ、少しずつ読みました。彼のストーリーは完全に変えられていました。
すると突然、広場から大きな声が聞こえました。ヌサとカンタンが外に出てみると、道徳警察が若い男を捕まえていました。彼の髪が長すぎたのです。バスワラの支配者、チャハラが指示をしていました。「お前のようにルールを破る者は許さない。こいつをアンティリアに連れていけ!」とチャハラは言いました。
集まった人々は誰も動きませんでした。すると、「やめろ! 彼を自由にしろ! 彼は何も悪くない!」と一人の女の子が叫びました。ガヤトリです。
「どういうつもりだ? この私に逆らおうとでもいうのか?」とチャハラは言いました。
ヌサはすばやくチャハラとガヤトリの間に入りました。「チャハラ様! 彼女を許してください!」とヌサは頼みました。
チャハラはヌサを見て驚きました。そして違う方を向き「二人とも私の前から消えろ! その男はアンティリアに連れていけ!」と言いました。
チャハラが立ち去ると、ガヤとりがすぐに近寄ってきてヌサを押し、「なぜ私を止めた? あなたは何者なの?」と怒ったように言いました。
「まず、ありがとう、って言ったらどうだい? 僕はヌサ。初めまして。君の名前は?」と、丁寧に聞きました。
「怪しい人間に名前を言う必要はない!」ガヤトリはイライラしながらため息をつき、厳しい声でこう言いました。
「いいかい、ヌサさん、チャハラが作ったルールはみんなを守るためのものではない。チャハラの力を強くするためのものだ。平和に見えても、バスワラは平和じゃない。チャハラは私たちに外の世界から来たものを見せないようにしているから、みんな、この場所のひどさがわからないんだ。」ガヤトリはヌサを置いて、歩いていきました。
Chapter 2
ヌサはカンタンと家に帰りました。「何を考えているんだ?」とカンタンは聞きました。「広場にいた女の子のことかい?」
「ああ、そうだよ。」カンタンは人の心が読めるようです。「彼女は、バスワラは平和じゃない、て言ってた! バスワラのひどさを、人々はわかっていないって。バスワラがどうしてどこともつながっていないのか、僕もいつも考えていた。彼女の言うことは正しいと思う。」ヌサは言いました。
「ヌサ! それは危ない考え方だよ。チャハラに反対しているのと同じことだ。」カンタンは声を低くしました。「もし警察がこの話を聞いたら、君はアンティリアに送られてしまうよ!」カンタンは心配そうに周りを見ました。
ヌサはため息をつきました。「みんなは、ルールを疑うことはいけないことだと考えている。でも君は違う。僕にとって君は、初めての本当の友だちだよ。カンタン、僕は君のことをを信じている。君は僕にとって本当に大事なんだ。君の言うことも大切なんだ。」
「信じてくれて嬉しいよ。」カンタンは何か大事なことを言おうとするかのように深くため息をついて、続けました。「だけど、君は知っておくべきだ。僕は、他の人とは違うんだ。」急に空気が重くなったかのようでした。ヌサは黙っていました。「バスワラは僕のような男を望まない。僕の生き方そのものがルールに反している。いつアンティリアに送られてしまうかしれないと考えると、怖いよ。」カンタンは、悲しく、おびえているように見えました。ヌサは彼の自分の方に向けました。
「誰にも言わないよ、カンタン。小さい頃は、バスワラの良い市民でいようと、とにかくルールを守っていた。でも、本を書くようになってから・・・」ヌサは続けました。「ここのルールが間違っていると気づいたんだ。あいつらは、僕が本に書いたことを書きかえてしまった。」
カンタンは笑いながら、出かける準備をしました。「ついてきて、ヌサ。君に答えを見せてあげる」とカンタンは言いました。
「え、何? どこへ?」ヌサは言いました。「カンタン、待って!」ヌサはコートをとり、カンタンの後を追いました。
Chapter 3
カンタンが秘密のドアを開けました。明るい部屋にさまざまな人々がいて、本当に楽しそうにしています。ここが「メラティ」でした。髪の長い男性、短い女性が、自由に話しています! ヌサは驚いていました。あたりを見回していると、カンタンが誰かを連れてきました。
「ヌサ、こちらはガヤトリ。ガヤトリ、彼はヌサ。」とカンタンはお互いを紹介しました。
ヌサとガヤトリはお互いをじっと見ました。ヌサがほほえむと、ガヤトリが不快な様子でにらみ返しました。「今日広場で、会ったばかりだな」とガヤトリが言いました。
「そうだね」と、カンタンは答えました。
「どうしてここに連れてきたの? 私は彼が好きじゃない! この人はおかしい!」と言って、ガヤトリはヌサを見ました。
「君たち二人ともチャハラに立ち向かったじゃないか。アンティリアに送られるかもしれないのに! その上、ヌサは君のこと、可愛いってさ。だから、彼を仲間に入れてあげてよ」と、カンタンは子犬のような目でお願いしました。
「わかったわよ! チャンスは一回だけよ!」ガヤトリは、ヌサに近づくと、無理に笑顔を作り、ヌサをメラティに迎え入れました。
時間が経ちました。ヌサはカンタンやガヤトリを始め、他の人たちとも話をしました。メラティは、バスワラにおいて、ルールに当てはまらない、普通とは違う人のために作られた場所でした。メラティの子供たちは、路上で拾われてきた子たちか、親のない子たちでした。
その場所は、窓がないにもかかわらず、バスワラの変化を望む人々の希望でいっぱいでした
Chapter 4
ヌサがメラティをしばしば訪れるようになって、何週間かが経ちました。ある日、ガヤトリは
ヌサ、カンタンとお昼ご飯を食べに行きました。食事の後、広場を歩きました。楽しく過ごしていると、突然、道徳警察が歩いてきて、カンタンを捕まえました。「何をするんだ? 放してくれ!」とカンタンは叫びました。
「黙れ! この男はバスワラのルールを破った!」道徳警察は言いました。「この男はすぐにアンティリアに送られる。では通してくれ。」道徳警察はカンタンを連れて立ち去りました。
ガヤトリは座り込んで、泣きました。「どうして警察がわかったの? 彼が他の人と違うことを知っているのは・・・」とガヤトリは言いました。「カンタン以外にこのことを知ってるのはふたりしかいない、君と私だ! 私は絶対にそんなことはしない。ということは、君が警察に教えたに違いない!」と言ってガヤトリは泣きました。
ヌサはびっくりしました。ガヤトリとカンタンの仲が良いことは知っていました。「ガヤトリ、お願いだ」とヌサは請いました。「僕は決してそんなことはしない! 彼を傷つけたりはしない!」
「私は君を信じてた! どうしてこんなことを私にするんだ? もうメラティには来ないでくれ!」ガヤトリはそう叫んで背を向けました。
「君は思い違いをしてる! 僕がやったんじゃないことを証明してみせる!」とヌサは叫びました。ガヤトリは気にも止めず歩いて行きました。彼女に聞こえたことを彼は願いました。
Chapter 5
しばらく経った頃、ガヤトリと彼女のダンスの生徒であるキラナが狭い道を歩いていると、二人の男が話しているのが見えました。一人は広場にいた長い髪の若い男でした。アンティリアに送られたはずのあの男だと、ガヤトリは思いました。驚いたことに、もう一人の男にも見覚えがありました。広場で長い髪の男を捕まえた警察官です! ガヤトリとキラナは隠れて、会話を聞きました。
「お前は、あの男が普通と違うことを見抜いたじゃないか! なぜ今度は難しいんだ?」と警察官が問いました。長い髪の男はメラティのことを探っていたのです。広場で男が捕まったのは、メラティのメンバーを見つけ出すのが目的だったということに、ガヤトリは気づきました!
ガヤトリはヌサの家に行くと、メモを見つけました。
ガヤトリへ
カンタンは君にとっては兄のようなものだよね。誓って言うけど、僕はカンタン秘密を警察に教えたりしていない。でも君は信じてくれなかった。この手紙を、もし君が見ているとしたら、僕はその頃アンティリアにいるはずだ。カンタンを探し出して、きっと一緒に帰ってくるよ。待ってて。
ヌサ
ガヤトリは自分のすべきことがわかっていました。ルールを破ったものだけだアンティリアに送られる。彼女は家の外に出て、髪を短く切りました。ガヤトリが道を歩いていると、道徳警察が来て彼女を止めました。「短い髪はルールに反している! アンティリアに連れて行く!」と道徳警察は言いました。そして、ガヤトリはアンティリアに送られました。
Chapter 6
道筋は見えず、進むことさえ難しい。ガヤトリはアンティリアの森で道に迷いました。「私は、一人で死ぬのね。誰も知ることもなく。」そう思うと、涙と雨が顔を落ちていきました。絶望しつつ、ゆっくりと意識を失っていきました。
*
ガヤトリは朝の光に目を覚ましました。彼女は生きていました! ガヤトリは小さな山小屋寝ていました。近くにヌサが座っていました。気持ちが落ち着くのを感じました。ガヤトリはベッドからとびおき、ヌサを抱きしめました。「ヌサ! ごめんなさい! あなたじゃなかった! あの長い髪の男がカンタンのことを警察に言ったんだ!」ガヤトリはヌサを放すと、まっすぐ彼を見つめました。「カンタンを見つけて、アンティリアから出よう!」ガヤトリはヌサの手を引き、カンタンを探しに行こうとしました。
「ガヤトリ、カンタンはそこにいるよ」とヌサは彼女の後ろを指しました。カンタンは静かに笑いながら、座ったまま彼女に手を振っていました。
「カンタン!」ガヤトリは駆け寄ると、カンタンを抱きしめました。カンタンは両手を広げて彼女を受け入れました。
「ガヤトリ、心配させたね。ごめんね」とカンタンは謝りました。
ヌサとカンタンはガヤトリを連れて、アンティリアを歩きました。村には幸せそうな人々がいました。アンティリアは怖いところではありませんでした。ルールがないため、人々はありのままの自分でいることができました。三人は、さまざまな人々に会いながら、一日中アンティリアをまわりました。
数週間が経ちました。カンタン、ガヤトリ、ヌサは島で暮らすことにしました。ヌサのアンティリアを思う気持ちは日々強くなっていきました。「僕は本当にここが好き。」ヌサは言いました。
「私も。アンティリアは天国みたい!」ガヤトリは言いました。
突然、叫び声が聞こえました。「ここはアンティリアか? 出してくれ!」と男が何度も叫んでいました。
「ここには出口はありません! ここは天国ですよ! なぜ帰りたいのですか?」ガヤトリは聞きました。
「みんな、よく聞け! ルールを守らない者をここに送ってしまうより、殺してしまった方がよいとチャハラは決めた。道徳警察がここに来て、僕たちみんなを殺すんだ! 時間がない、早く隠れよう」男が言いました。
人々はおどろき、慌てました。全員、なんとかして逃げ出すことを考えて騒がしくなりました。チャハラはバスワラを悲しい場所にしてしまいました。そのため、アンティリアに送られた人々はバスワラにいた時よりも幸せでした。もしアンティリアがなくなってしまったら、幸せでいられる場所も無くなってしまいます。戦うしかないことをヌサは知っていました。木の切り株に飛び乗ると叫びました。
「みんな、静かにしてくれ!」
人々が静かになりました。みんながヌサを見ています。ヌサは緊張しましたが、言わなければならないことはわかっていました。「ずっと逃げ続けるわけにはいかない」と続けました。みんな静かに立っています。「戦う時がきた。チャハラは僕たちの自由を奪った。今、僕たちの命も奪おうとしている。もしチャハラが自由を許さないのなら、彼と戦おう。たとえそれが私たちの最後にしたことになったとしても!」ヌサは熱心に聞く人々を見ました。
「僕と一緒に戦うのは誰だ?」
Chapter 7
小さな少女がチャハラにぶつかりました。キラナでした。前を見ていなかったので、ぶつかってしまったのです。道徳警察がキラナを捕まえました。チャハラは転んだ少女を見下ろしました。キラナはひどいことが起こるのを覚悟して息を飲み込みました。
「無礼者! 広場で殺してしまえ! 群衆の前でだ! みんながそれを見るがいい。」とチャハラは命令しました。キラナの首に縄が巻き付けられると、彼女は泣き出しました。実行の命令が下るまで、泣くことしかできませんでした。「ルールを守らない者に何が起こるか、それを見せるためにお前たちを集めた!」と、チャハラは死刑の前にスピーチをしました。「なぜルールに従わないといけないか、教えてやる。」振り向いて、キラナを見ると言いました。「縄をひけ!」
「やめろーー!!」ガヤトリでした。彼女とカンタン、ヌサに連れられたアンティリアの部隊が戦う準備を整えて広場を囲んでいました。ヌサはガヤトリを探しました。ガヤトリはぶら下がっているキラナの体の前で泣いていました。キラナは死んでいました。ガヤトリはチャハラに憎しみの目を向けました。「この悪魔!」とガヤトリが叫ぶと、チャハラを地面に倒そうとぶつかりました。
「愚か者め! 私に勝てると思っているのか! 私はバスワラの王だ! お前が勝つはずがない!」チャハラはガヤトリを捕まえ、頭に銃をあてました。「私の軍隊がすぐに駆けつける。そうしたらお前たちはみんな死ぬんだ!」
「そんなことはさせない! あなたの武器と弾薬は全て私たちが奪った! 父さん、あなたは勝てない。諦めろ!」とヌサは言いました。ヌサは銃を抜くとチャハラに向けました。ガヤトリはあまりのことに目を見開きました。チャハラとヌサは家族だったのです!
「私はお前の父親ではない、お前は私の息子ではない! 諦めたりするものか!」とチャハラは言いました。彼はガヤトリの頭を銃で強く押し、今にも撃とうとしました。
「やめろ!」ヌサは叫びました。二つの銃が同時に鳴り響きました。チャハラとガヤトリは倒れてしまいました。
エピローグ
読者へ
バスワラの戦いから六ヶ月が過ぎた。チャハラは死んだ。でも心配しないで、ガヤトリは生き残った! 誰かがバスワラのリーダーにならなければならない。それは、私の役ではなく、ガヤトリの仕事だ。カンタンが彼女を助けるとよいと思う。
僕は今まで通り、作家の仕事を続けたい。一番好きなことをして日々を過ごしたい。バスワラのひどいルールは無くなった。僕たちは自分の好きなことをして生きていい。またどこかで会いましょう。
さようなら。
ヌサ・ライハン・カタジャサ
THE END